「エステの仕事は好きなのに、この職場では続けられない」。
キャリア相談の場で、いちばんよく聞く言葉です。
はじめまして、美容業界専門のキャリアコンサルタントをしている三好早紀です。
大手エステサロンで現場を6年、店長を2年務めたあと、いまは美容学生やサロン転職を考える方の相談に乗っています。
10年、15年と続けているエステティシャンに話を聞くと、共通点がひとつあります。
入社前に確かめることを、自分の中で決めていたという点です。
体力や根性の話は、ほとんど出てきません。
この記事では、続けている人たちが見ていた基準を5つに絞ってお伝えします。
面接でそのまま使える質問と、社員クチコミの読み方もあわせて紹介します。
サロン選びの手元メモとして使ってください。
続かない原因は「向き不向き」より職場の条件にある
3人に1人が、最初の職場を1年たたずに離れている
リクルートのホットペッパービューティーアカデミーが2026年4月に公表した美容サロン就業実態調査(2026年)に、初めての就職先がエステティシャンだった755人の回答があります。
最初の職場を1年未満で離れた人は30.6%でした。
1年以上3年未満の31.5%を足すと、6割を超える人が3年たたずに最初の職場を離れた計算になります。
国の統計も見ておきます。
厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)では、就職後3年以内の離職率が高卒で37.9%、大卒で33.8%でした。
エステを含む「生活関連サービス業,娯楽業」に限ると、高卒61.5%、大卒54.7%まで上がります。
こちらはエステ単独の数字ではなく、理美容や旅行、冠婚葬祭なども含んでいます。
それでも、人の入れ替わりが多い業界だということは読み取れます。
入社後のギャップは「時間」と「休み」に集まる
リクルートの同じ調査では、入社半年以内に感じたギャップも聞いています。
初職がエステティシャンだった人の回答は、次のとおりです。
| 入社半年以内に感じたギャップ(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 拘束時間の長さ・残業の多さ | 45.4% |
| 休日・休暇のとりづらさ | 34.4% |
| 接客・業務のプレッシャー | 32.3% |
| 給与・手取り額の低さ | 31.7% |
| 人間関係(上下関係・雰囲気) | 30.3% |
美容サロン6職種の合計では「給与」が1位ですが、エステティシャンは「拘束時間」が1位です。
技術習得の厳しさを挙げた人は15.5%にとどまりました。
辞めた一番の理由をひとつだけ選ぶ設問では、「ノルマが厳しかった」が13.8%で最多です。
6職種の合計では3.2%ですから、エステならではの理由だとわかります。
上位に並ぶのは時間、休み、目標、人間関係で、施術そのものへの不満ではありません。
私が受けてきた相談でも同じでした。
そして、この4つはどれも入社前に確かめられます。
続けている人が基準を持っていたのは、そのためです。
長く続けている人が入社前に確かめている5つの基準
売上目標の決め方と、届かなかったときの扱い
「ノルマなし」と書かれた求人でも、店舗の売上目標はたいていあります。
目標があること自体は、悪い話ではありません。
確かめたいのは、目標が個人単位か店舗単位か、届かなかった月に給与がどうなるかです。
続けている人は、ここを面接で具体的に聞いています。
達成したら手当が上乗せされる仕組みなのか、未達だと減額や自費での購入があるのか。
同じ「目標あり」でも、働く側の負担はまるで違います。
採用サイトのQ&Aに、未達のときの減給やペナルティの有無まで書いている会社もあります。
書いてあれば、面接ではその内容を自分の言葉で確認するだけで済みます。
書いていない会社ほど、口頭で聞いた答えをメモに残しておいてください。
練習時間と残業の数え方
エステは、営業時間の外でも技術を磨く仕事です。
先ほどの調査でも、勤務日に時間外の練習や勉強が「0分」と答えた現役エステティシャンは23.8%でした。
4人に3人は、仕事の前後に何かしら練習していることになります。
練習そのものは、技術職なら当たり前です。
見ておきたいのは、その時間が勤務として扱われるかどうか。
研修が勤務時間内に組まれているか、残業代は何分単位で計算されるか、固定残業代は何時間分か。
求人票に書かれていなければ、聞いて構いません。
固定残業代は、読み飛ばされやすい項目です。
「固定残業代2万円」とだけ見ると手当のように感じますが、これは一定時間分の残業代をあらかじめ払うという意味です。
何時間分にあたるのか、超えた分が追加で支払われるのかまで書いてある求人票は、勤務時間の管理がきちんとしている目安になります。
休日の決まり方と有給の取りやすさ
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、2024年の年次有給休暇の取得率は全体で66.9%でした。
「生活関連サービス業,娯楽業」は59.6%で、7ポイントほど低くなっています。
1企業あたりの年間休日の平均も、全体の112.4日に対して105.3日です。
この調査は従業員30人以上の企業が対象なので、小さな個人サロンは含まれていません。
求人票の「月9日休み」は、年間にすると108日です。
月の数字を12倍して、業界の平均と比べる癖をつけておくと、休日の多い少ないを感覚で判断せずに済みます。
土日祝に出勤するのは、サロン勤務ではごく普通です。
だからこそ、月の休日数、希望休を出せる日数、シフトが確定する時期の3点を聞いておきます。
友人の結婚式や家族の行事に出られるかどうかは、5年、10年と続けるうちにじわじわ効いてきます。
店長と先輩の人柄
現役エステティシャン500人が「働くうえで重要」と答えた項目の1位は、「働いているスタッフの人柄」で49.8%でした。
給与(42.8%)や休日日数(37.8%)より上です。
最初の職場を1年未満で離れた人に理由を聞いた設問でも、「人間関係が合わなかった」が27.3%でいちばん多くなっています。
私自身、店長をしていた頃に痛感しました。
同じ会社、同じ制度でも、店舗が変わると働き心地は別物になります。
配属予定の店舗を見学させてもらい、スタッフ同士の声のかけ方や新人への教え方を自分の目で見る。
これがいちばん確実です。
出産や育児のあとの働き方
20代で入社すると後回しにしがちですが、長く続けた人ほどここを先に見ています。
産休・育休の制度があるかどうかだけでは足りません。
復帰した先輩が実際にいるか、時短勤務は子どもが何歳まで使えるか、残業の免除はあるか。
3歳未満の子を育てる人向けの短時間勤務は、法律で会社に義務づけられています。
厚生労働省の案内によると、残業の免除も2025年4月の法改正で小学校入学前まで請求できるようになりました。
法律の線より先まで認めている会社かどうかで、続けやすさに差が出ます。
面接や見学でそのまま使える質問
5つの基準を、質問の形にしておきます。
| 確かめたい基準 | 質問の例 |
|---|---|
| 売上目標 | 目標は個人と店舗のどちらで設定されますか。届かなかった月の給与はどうなりますか |
| 練習と残業 | 技術練習は勤務時間内ですか。残業代は何分単位で計算されますか |
| 休日と有給 | 希望休は月に何日出せますか。昨年、皆さんは有給を何日くらい取りましたか |
| 店長と先輩 | 配属予定の店舗を見学できますか。新人には誰がどのように教えますか |
| 育児との両立 | 育休から復帰して働いている方は何人いますか。時短勤務はいつまで使えますか |
聞きにくいと感じるかもしれません。
ただ、きちんと答えてくれる会社は、入社後の説明も丁寧です。
答えを濁されたら、それも判断材料になります。
5つすべてが満点のサロンは、正直なところなかなかありません。
相談の場では、「これだけは譲れない」という基準を2つ選んでもらっています。
休日を最優先にする人もいれば、技術を早く身につけたいから研修を最優先にする人もいます。
優先順位が決まっていると、内定が出たあとに迷う時間が減ります。
社員クチコミは「いつ・誰が」書いたかで読む
同じ会社でも、書かれた時期で中身が変わる
基準が決まったら、社員クチコミと照らし合わせます。
星の数だけ見て閉じてしまうと、大事な情報を取りこぼします。
OpenWorkを例にすると、投稿できるのは正社員か契約社員として1年以上働いた人で、運営スタッフの審査を通ったものだけが載ります。
一方で、運営会社自身が「投稿者の体験に基づく主観的な意見」だと明記しています。
1件で会社全体は語れません。
見るのは、回答日、在籍期間、職種の3つです。
たかの友梨ビューティクリニックを運営する不二ビューティで見てみます。
同社は2015年2月、労働組合と「ママ・パパ安心労働協約」を結びました。
弁護士ドットコムニュースの当時の報道によると、時短勤務は子どもの小学校入学まで、残業なしの勤務は小学校在学中まで選べるという、法律の基準より手厚い内容です。
その2年後、2017年3月に投稿されたのが、たかの友梨で働いていた社員による「女性の働きやすさ」のクチコミです。
回答者は、新卒入社で3〜5年在籍した元エステティシャン。
題は「いまのたかの友梨は働きやすいです。」で、総合評価は4.5、本人の残業は月3時間、有給休暇の消化率は100%と回答しています。
項目別に見ると、20代成長環境と法令順守意識がどちらも5.0でした。
協約が結ばれた2年後に書かれた回答として読むと、題にある「いまの」という言葉の重みが伝わってきます。
1件の数字と全体の数字を並べてみる
同じOpenWorkで会社全体の集計を見ると、残業は月22.6時間、有給消化率は41.7%でした(2026年9月時点の表示)。
先ほどの1件とは開きがあります。
どちらかが間違っているわけではなく、全体の数字には、在籍した時期も店舗もばらばらな回答者175人分が混ざっているためです。
同社の採用サイトは、現場スタッフの残業を月平均13.3時間(2025年12月時点)と案内しています。
以前に在籍していた人の回答、制度が変わったあとの回答、直近の会社の発表。
この3つを時期の順に並べると、その会社がどちらの方向へ動いてきたかが見えてきます。
読むときの手順は、次の4つです。
- 回答日と在籍期間を見て、制度が変わる前の話か後の話かを確かめる
- 自分が志望する職種の回答から先に読む
- 評価の高い1件と低い1件を両方読み、何が違うのかを考える
- 気になった点は面接で質問し、いまの状況を会社から直接聞く
相談に来た方には、クチコミは答えではなく質問のタネですよ、といつも伝えています。
公的なデータでも裏を取る
クチコミと会社の説明に加えて、公的な情報源も使えます。
厚生労働省が運営する職場情報総合サイトしょくばらぼでは、企業の職場情報を検索し、複数の会社を並べて比較できます。
すべてのサロンが載っているわけではありません。
それでも、大手を受けるなら一度は社名を入れて検索しておきたいサイトです。
新卒で応募する方は、もうひとつ知っておいてください。
厚生労働省の資料によると、若者雇用促進法では、応募者から求めがあった場合に会社が職場情報を提供することが義務になっています。
平均勤続年数や研修の内容を尋ねるのは、失礼どころか法律が後押ししている行動です。
会社の説明、社員クチコミ、公的なデータ。
3つの向きがそろっていれば、その情報はかなり信用できます。
食い違っていたら、そこが面接で聞くべき質問になります。
まとめ
エステティシャンを長く続けている人は、入社前に次の5つを確かめていました。
- 売上目標の決め方と、届かなかったときの扱い
- 練習時間と残業の数え方
- 休日の決まり方と有給の取りやすさ
- 店長と先輩の人柄
- 出産や育児のあとの働き方
どれも、求人票を眺めているだけではわかりません。
面接で聞き、店舗を見学し、社員クチコミを時期と立場で読み分け、公的なデータで裏を取る。
手間はかかりますが、入社してから悩む時間に比べれば、ずっと短く済みます。
好きで選んだ仕事を、職場が合わないという理由だけで手放すのはもったいない。
現場にいた頃も、相談を受けるいまも、そう思っています。
気になるサロンが見つかったら、まず質問を3つ書き出すところから始めてみてください。
